コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その5


私の教室で、水彩画や油絵を習い始めた初心者のひとから、しばらくすると、「やはりデッサンを練習した方がよいですか」と質問されることがあって、そんなときに「どうしてそう思われるのですか」と問い返すと、だいたい次のような答えが返ってくる。

1、形が正確に描けないので・・・
2、物の立体感がうまく出せないので・・・
3、絵の中の遠近感が出せていないように思うので・・・

どれもデッサンの必要性を感じるにはもっともな理由だから、デッサンの練習を始めることには賛成する。
しかし、どうしてもデッサンの練習をしなければいけないのかというと、そうとも言えない。前にも書いたように、練習するための時間的な問題もあるわけだし。

そもそも「形が正確に描けない」ことをあまり気にする必要はない。水彩画(あるいは油絵)を描き続けているうちに、正しい形ではないが何となくいい形が描けるようになるものだ。
「立体感がうまく出せない」ことも、それほど気にすることはないだろう。いい絵にするのに、物の立体感は必須のものではないから。昔の日本の絵を見ればそれが分かる。上に掲載したジョージア・オキーフのデッサンも、立体感を重視していないながらたいへん美しい。「わざと重視していないだけで、描けないこととはわけが違う」と言われそうだが、結局、同じことなのだと思う。

「絵の中の遠近感が出せていない」ということだけは、すこしだけ気にした方がよい。
だからといって、それをデッサンの練習だけで解決しようとしなくてもよいと思う。いったい絵の中の空間とはどういうものなのか(非常に難問だ)を考えつつ、水彩画や油絵に加えてすこしデッサンの練習もしていくのが最良の方法ではないだろうか。
そういうことだから、最初の質問には、「できたらデッサンも練習しましょう。でも、しっかりした、本格的なデッサンではなくて、スケッチをたくさん描きましょう」と私は答えたい。
さて、そのスケッチについては次回に述べたい。