コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その3


掲載した絵は、素朴派の画家、アンリ・ルソーのもの。私は、ルソーのこのような花の絵の実物を何回か見たことがある。画集で見るよりはるかに美しく魅力的で、崇高な感じさえした。
花というモチーフは、花自体が美しい造形物だから、単にそれをできるだけ忠実に描いただけでも美しい絵ができあがる。でもルソーのこの作品は、そのようにリアルに花が描かれてはいないけれど、たいへん美しい絵になっている。

ところで、花をできるだけ忠実に写せるようになるには、デッサンを練習しなければならない。デッサンを一生懸命練習して描写力がつけば、花を忠実に描くことができる。
だから、絵を習い始めの人は、とにかくデッサンをしなければならない気になっている。そしてデッサンがある程度できて花を忠実に再現できれば、きれいな花の絵を描けると考える。
その考えは、たぶん間違っていないと思う。しかし、それならルソーの絵のような、花を忠実に描いていないのにとても美しい絵の場合は、いったいどう考えたらよいのだろうか。

忠実に写された花の絵とルソーの花の絵では、「美しさ」の種類が違うのではという指摘もあるだろう。それはその通りだろうが、両方とも美しい絵であることに変わりはないと考えて話を進めたい。
そうすると、美しい花の絵を描くのに、忠実に写すように描かなくても、美しい絵にする方法があると言えるのではないか。ルソーの絵はそれを教えてくれている。

花を忠実に写して描くことができなくても、美しい花の絵を描けるなら、絵を習い始めた人がデッサンを練習する必要はない・・・と言い切ることはできないが、少なくとも、デッサンの練習について再考する必要はあると思う。

次回は、絵を習い始めた人が、デッサンの練習をする必要があるかどうかについて述べたいと思う。