コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その67

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前回の続き。写実を基本に絵を描くとしても、「ゆるい写実」を目標にすることを私は教室の生徒に勧めたいと思っている。「ゆるい写実」とは、上に掲載したダリの作品のような細部まで克明に描写する写実ではなくて、もっと融通無碍に描かれた写実という意味だ。それにはまず、色彩を柔軟に使うことを考えたい。果物や花などの色を塗るときに、写真のようにそっくり同じにしようと考えないで、じっくりと見て感じた色をおいてみて、もしそれが実物と似ていないと思っても美しい色で対象物の色の感じが出ていればよしとする。

 対象物の色の感じを出すというのは、例えばピンク色の花を見て鮮やかで美しい色だと感じても、造花のようなけばけばしい色をおかないで、自然物らしい深みのある派手さを感じ取って、そういう色味を表現することだ。このような色の性質をつかめていれば、実物とまったく同じでなくてもリアルに見えると思った方がよい。いずれにしろ、色彩ほど作者の感性をストレートに反映するものはないから、写実で描くにしても「色は結構自由に使える」と考えるべきだろう。

さて、掲載したダリの作品は凄い写実で、写実絵画の理想像のように思えてしまう。形の正確さ精密さが際立っていて真に迫っている。この絵のように細部まで正確に克明に形を表現する写実が正統派だろうが、前述したようにゆるい写実を目標にするなら、もうすこし形を適当に表現した写実を考えてみることが本筋になってくる。ここでいう適当とは形をいい加減に描いたという意味でなく、ものをリアルに見せるために適した形を見つけていくことで、それには形の特徴を見つけるための観察から始める必要がある。

対象物の形の特徴を見ようとしないで形の正確さだけを追って描き写していると、何だか不自然でぎこちない形になってしまうことがある。簡単な具体例をあげよう。広げたハンカチを真上から見ると正方形だが、だからといって定規で正方形を描いたらとても不自然なハンカチになる。フリーハンドで描けば自然と歪んだ正方形になってしまうが、この方がよっぽどハンカチらしい形だ。定規で引いた直線はまっすぐ過ぎるし、正方形も正確過ぎて布らしくないわけだ。実際にいろんなモチーフを描いていくと、ものの形の複雑で微妙な特徴をつかむことがいかにリアルさにとって大切であるかが分かる。言い換えれば、ものの形の特徴さえ的確につかめていれば、形の簡素化を大胆に行ってもけっして写実から離れることはないだろう。