コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その55

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何回かにわたり風景画の制作の話をしてきた。私の教室の生徒には旅行などで撮ってきた写真をもとに風景画を描いている人がいて、そのようなときの参考になればと思って内容を選んでいる。それで、今回は「焦点をつくること」について書いてみたい。焦点とは、絵を見たときに観者の視線を最もひきつけるところという意味で用いることにする。焦点をしっかり設定すると絵をまとめるのが容易になる。

上に掲載した写真の景色を風景画に描こうと思うとき、高楼のある上部の方に興味をひかれる人と水面や家屋のある下部に興味をひかれる人とに分かれると思う。前者の場合は高楼が興味の中心になるだろうし、後者の場合は真ん中の水辺の家屋が興味の中心となるだろう。そうすると、そこが画面の焦点となるように描いていく。焦点を上部にもってくるか下部にもってくるかは、作者が何に興味をもったか、つまり描きたいと思ったかの違いだからどちらでもよいわけだ。ところで、高楼も水辺の家屋も両方同じくらい興味があるから、画面の上部も下部も同様にしっかり描くぞと思うとしたらどうだろうか。やはり興味の中心がぼやけてまとまりの弱い絵になりやすく、いい絵にするのが大変難しいことになると思う。画面にしっかりした焦点をつくると、画面全体がひきしまって統一感の強い絵にすることができる。

さて、焦点となるように興味の中心となるものを描き込んでいくことについて良い質問を受けた。「近くのものほどしっかり描いて遠近感を出すのではないか、興味のあるものが遠くだったらどうするのか?」というものだ。デッサンの練習では、「手前にあるものほど詳しくはっきり描いて、奥のものはぼんやり描くと遠近感が出る」と習うが、たしかにその通りではあるけれども、いついかなる時も守らないといけない作画の法則というわけではない。風景画で興味のある対象が手前でなくても、それを最もしっかりと描き込んで焦点になるように絵を創っていく。そうすることで、遠くにある対象が近くに引き寄せられる効果をねらう方がいい絵になると思う。

具体的に掲載した写真の風景でいうと、焦点が画面上部の高楼にくるようしっかり描き込んで強くしていくと、高楼がグッと手前に引き寄せられ前景である水辺のあたりが目立たなくなり奥行きが浅くなる。しかしここが微妙なのだが、奥行きは浅くなるけれども高楼と手前の家屋の遠近感が逆転することは避けられる、そうならないよう(ヴァルールが狂わないよう)に描けばよいだけだ。それは作者のテクニックに関係する。また、遠近感についての考え方次第で表現が違ってくるだろう。その考え方について次回は述べてみたい。