コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その56

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前回の続き。風景画を描く場合、まずもって遠近感をうまく出したいと考えるのではないだろうか。経験を積んだ人ならパースや空気遠近法を活用して、近景・中景・遠景を描きわけて奥行きのある風景画を描こうとするだろう。遠くにある森や建物などがずーっと遠くに見えるように描きたいと思うだろう。しかしそもそも、ずーっと遠くというのは、どのくらいの距離感が出ればよしとするのか悩むところである。遠景にある建物までの距離感を実際の景色と同じくらい出そうとすると、随分と弱くぼんやり描かなければならないので、現実感の乏しい絵になってしまってなんだか違うなあと思うこともあるだろう。

近くのものより遠くのものほど弱くぼやかして描くと遠近感が出るというのは、テクニックとしては重宝するけれども、そればかりだと面白味のない画面になってしまうことがある。遠景にある建物の屋根が赤くきれいに見えるから思い切って鮮やかな赤色を置いてみたら、あまり遠くにあるようには見えないが画面は生き生きしてきた感じになった、そういうことだって起こり得る。ここで、遠くの屋根の色はおさえた鈍い赤色にしようとテクニックだけ考えて描くと、画面の収まりはよいが平凡な絵になるかも知れない。もちろん、鮮やかな赤色を置くよりおさえた赤色を使った方が遠近感は出るから安定した感じにはなりやすい。

上に掲載したのはピサロの作品。赤い屋根が印象的だが、近くの屋根も遠くの屋根も同じくらいの鮮やかさの赤色を置いている。このことだけが原因ではないのだが、奥行きの浅い絵になっていて、建物の位置を実際の景色と同じくらいの距離感で表現しようとしていない。赤い屋根の家は近くと遠くの家の位置感はかなり弱く、いくつかの高い塔のような建物も遠近の違いがあまり感じられない。これはピサロの奥行き、遠近感についての考え方が表れていると思う。現実の景色を目の前にしたら、この家とあの家はどのくらい離れているかは分かるわけだが、そういう実際の距離を表現することは重要でないというピサロの考え方だ。では何が重要なのだろうか。続きは次回にしたい。