コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その51

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前回は20世紀初めのニューヨークを描いたジョン・マリンの風景画を紹介した。このような「街」をモチーフとした風景画は、西洋絵画でいうと古くはフェルメールの「デルフトの眺望」やベネツィアを描いたカナレットの作品をはじめ、殊に印象派以降の画家の作品には多くみられる。ユトリロのように、ほぼ街しか描いていない画家もいる。街の景色は、様々な建築物、駅や橋、市場や路地など変化に富んでいて描く対象にこと欠かない。

しかしながら、実際にコンパクトカメラとスケッチブックをバッグに詰めてあちこちの街をうろついてみての実感なのだが、例えば感じのよい趣きのある建物があって描く気になっても、すぐ隣りに愛想のないビルが並んでいて雰囲気を台無しにしている所が多い。歴史のありそうな店が軒を連ねている商店街があり好ましい感じなのだが、それらの間にゲームセンターが混在しているとガッカリだし、家並みの美しい街の眺めに魅力を感じても、無粋な大きな看板が目立っていて景観を損ねていることもよくある。

 もちろん、そういう野暮なものは省略してしまい、それこそ描くものと描かないものを厳しく区別して理想の風景を創って描けばよさそうなものだが、絵になりそうな全体のヴィジョンをつかむことを不可能にするくらいの致命的な存在になっている場合があるから困る。それで解決法の一つとしては、構図をよく練ってみることが考えられるだろう。まずは眼前の風景をどう切り取るか、いろんなバリエーションを想像してみるとよい。

上に掲載したのは、東山魁夷がヨーロッパの旅で描いたスケッチ。私はこの構図に意表を突かれた。街の風景をこういう切り取り方でつかむこともできるんだなあと感心した。東山魁夷の作品に限らないのだが、日本画の風景画のなかには秀逸な構図の作品が時折見られる。風景画の構図に注目して近代以降の日本画や、江戸時代以前の浮世絵その他の日本絵画を数多く見ていくと制作のヒントをもらった気になることがある。

次回も風景画について書くことにする。