コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その36

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人物画を練習することについて書いてきたけれども、モデルがいないので困る場合、雑誌や新聞の人物写真をスケッチするのも仕方によっては練習になると思う。さらに熱心に練習したいなら、やはりクロッキーをたくさん描くのがベストだ。昔の東京在住の画学生は、山手線に乗って向かいの席の乗客を次々にクロッキーする練習をしたというが、現在はそんなことをするとどんな災難に会うか分からないのでよした方が無難だ。駅のホームや公園や大型ショッピングモールのベンチに座って、行き交う人たちや立ち話している人をクロッキーする方法なら問題も起きにくいだろう。とても短い時間でさらっと描くわけだからなかなか難しいが、人体の動きをスムースに素早くつかむ練習になる。

ところで、セザンヌの人物画だ。唐突にセザンヌが出てきたが、人物画の話を終える前にセザンヌの人物画についてすこし書きておきたいと思う。セザンヌは妻をモデルにした人物画をいくつも残している。モデルをしている最中に夫人が動くと「リンゴが動くか!」と言って叱ったというから、いくら傑作の誕生に協力できたからといって夫人が喜んでいたかどうか・・・。ともあれ、セザンヌにとっては、人間もリンゴと区別のない同様の「物」としてのモチーフであったと思う。だからセザンヌの描く人物にはその人の人格があまり感じられないし、人体らしい写実をとらえてもいない。つまり、人間というモチーフを通して別の何かを表現しようとしていると考えられる。

そういう人物画はセザンヌ以降に数多く描かれるようになって、掲載したデ・クーニングの作品「Woman3」もそういう例だといえる。セザンヌは近代絵画の父と定義されていて、趣味で絵を描いている人で、描くことを楽しみたいのはもちろんだが絵画論を考えることも楽しみたいと思っている人は、まずはセザンヌをテーマに調べたり考えたりすると刺激的で面白いのではないかと思う。