コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その110

 

前回の続きで、油絵初心者に役立ちそうなアドバイスを考えていきたい。油絵を描き始めたばかりの人や、今は絵画教室に通っていない初心者にざっくばらんに話すつもりで書いていく。とりとめのない話になるかも知れないが、参考になればと思う。

油絵の描き方はいろいろあるから、現在、熱心に絵画教室に通っている人は、先生の推奨する描き方で練習していくのがベストである。そうでない人で、まずはどのような描き方を練習すればよいかで悩んでいるなら、ざっくり描くことから始めよう。ざっくり描いて油絵具もざっくり多量に画面にのせる。つまり厚塗りをしてみる。油絵具を物理的にたくさん使って描く練習は、初心者の段階で経験してみる価値があると思う。東京芸大の教授だった林武は、ある生徒に向かって、「絵具はこのくらいのせるのだ」と言いながらチューブから絵具を絞り出し直にキャンバスに塗りつけたと、以前に何かで読んだけれども、それほどでなくても相当厚めに塗ることを試してみるとよい。

というのも、油絵を始めたばかりの人は、小学校や中学校で使用していた不透明水彩絵具と同じように、絵具をゆるく溶いて塗り伸ばすという使い方になりがちだからだ。それでは、油絵具はいろんな使い方ができる画材だという可能性が分からないだろう。油絵の経験を積むと、描き方として厚塗りがよいか薄塗りがよいかは、自然と自分に合う描き方を選んでいくようになるから、ともあれ最初は厚塗りを試す方がよい。

厚塗りといっても、どの段階で厚く塗るのか、最初から終わりまですべて厚塗りで描くのかなど疑問があるだろうから少々説明すると、描き始めの段階、中描きの段階、仕上げの段階と分けるなら、中描きの段階で思い切って厚塗りをしてみよう。描き始めの段階は、キャンバスに木炭などで形を描いて大まかに薄塗りで下塗りをする段階だ。その次の段階で、こってりした絵具を厚く使って描いていく。溶き油であまり薄めないように留意するとよい。グチャグチャになっても気にしない。その後に乾燥させよう。そして、手で触っても付かないくらいに乾いたら重ね塗りをしていく。

絵具をたっぷり使って短時間で一気に完成させる、乾燥後の重ね塗りはしないという描き方もあって、「プリマ描き(アラプリマ)」というが、それは初心者には向かないので乾燥後に重ね塗りをしよう。乾燥させて描いて、また乾燥させて描けばよい。厚塗りだが、乾燥させての重ね塗りをしていない絵で思い浮かぶのはゴッホ。上に掲載したのはゴッホの1888年の作品だ。この作品は何回も塗り重ねているのではなくて、アラプリマに近い描き方だろう。ゴッホの晩年には、一日に3枚の油絵を描いたこともあったと言われている。乾燥を待っている時間はないわけだから、その時期には厚塗りで一気呵成に仕上げている作品が多いと思う。

次回もこの続きを。