コラムトエ

兵庫県西宮市にある久我美術研究所から発信する美術に関する「コラムと絵」を載せていきます。

絵を描くのが上手くなる方法、その49

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前回の続き。前回掲載した明石海峡大橋と夕日の写真は大変美しいものだが、これを描いていい絵にするのはちょっと無理なんじゃないかと書いた。なぜそう思うかというと非常にシンプルな風景なので、描くこと(描けること)がとても少ないからだ。ほぼシルエットの橋と島、それと穏やかな海と夕日と雲ひとつない空しか描くものがない。

もしこれが昼間に現場で実際に見ながら描くのなら、橋の複雑な構造やら、波の形や色の面白さやら、海上を行き交う船舶などたくさんの描けるものが見えているわけで、絵を創り上げるための材料が数多く用意されている。つまり、風景の中にある様々な造形的な要素を感じ取って、描きたいこと、描くべきことを取捨選択し表現に結びつけることができる。

あまりにシンプルな景色だと、風景画に仕上げるのに「何を描けばいいんだ!」と行き詰まって困惑してしまうのではないかと思う。だから、ゴチャゴチャしていて描くことが多すぎる景色の方が、一見難しいようで実は絵にするのが容易だと言えなくもない。写真を見て描く場合は殊更そう言えるわけで、なぜなら実景を見ながら描くのに比べると情報量がずっと少ないからだ。それで私は、写真を撮ってきてそれを見て描くなら、シンプルな風景写真は避けて、描くことがたくさんあってちょっと面倒かなと思うくらいのものに取り組んでみてはどうでしょうと生徒にアドバイスしている。

上に掲載したのは島根県立美術館が所蔵しているクールベの「波」で、写実主義で描くならこういうシンプルな海景はすごく難しいもので、よほどの腕がないといい絵にならない。波の写真を上手に撮って、それを克明に描き写したらいい絵になるかというと、まずダメだと思う。スーパーリアリズム風に正確に精密に表現したなら面白いのかも知れないが、中途半端に詳しく描写しても波の説明図みたいな感じになって、絵としての肝心なものが抜け落ちてしまいそうに思う。